
映画『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』より
百日紅
杉浦日向子の漫画『百日紅(さるすべり)』が待望の長編映画化。現在、全国で上映中です。監督は「クレヨンしんちゃん」シリーズや『河童のクゥと夏休み』などを手がけた、原恵一監督。北斎の娘であり浮世絵師のお栄の目を通じて、四季折々の江戸の街並みと人々の暮らしを美しいアニメーションで活写しています。
映画『百日紅〜Miss HOKUSAI〜』は、杉浦日向子の代表作『百日紅』を原作とした長編アニメーション。江戸の街を舞台に、歴史にその名を刻んだ浮世絵師たちが等身大の人間として描かれており、原作ファンならずとも、大人が楽しめるアニメ映画です。
浮世絵の世界が色鮮やかなアニメーション
登場人物は、葛飾北斎(かつしかほくさい)の娘・お栄(えい)を主人公に、父の北斎、彼らの家に居候する善次郎(のちの渓斎英泉)、お栄が淡い恋心を抱く北斎門下の初五郎(魚屋北渓)、お栄に思いを寄せる歌川国直など、浮世絵師が勢揃い。浮世絵が好きな方にはたまらない映画です。

映画「百日紅 〜Miss HOKUSAI〜」より
画像提供=東京テアトル
お栄と妹のお猶が小舟に乗り、二人の父親である北斎の代表作《神奈川沖浪裏(冨嶽三十六景)》のイメージのなかで遊ぶシーンは、アニメーションならではの演出。普段は無表情なお栄と盲目のお猶の笑顔が印象的です。
また、作中描かれる江戸の街並みは、歌川派の浮世絵を中心に、当時の絵画資料を下敷きにしていることがうかがえ、江戸風俗研究家である原作者の手堅い考証の姿勢を、制作スタッフが大切に守っているように感じられます。
浮世絵師・お栄の生涯
主人公であるお栄は、葛飾北斎の三女と伝えられており、北斎の制作助手として、また自らも葛飾応為(かつしか・おうい)という名の浮世絵師として活躍した女性です。衣食住には無頓着で、占い好き。仙人に憧れ、茯苓(ぶくりょう)というキノコの生薬を服用していたなど、風変わりなエピソードがいくつかの史料として残っています。

映画「百日紅 〜Miss HOKUSAI〜」より
画像提供=東京テアトル
一度嫁いだものの、夫の絵の腕前を笑って離縁し、出戻り後は北斎と寝食を共にし、父の最期を看取りました。部屋中ゴミだらけ、布団にシラミ大発生と伝えられる北斎の汚部屋で寝起きしていたのですから、確かに父親譲りの変わり者かもしれません。(国立国会図書館蔵「北斎仮宅之図」参照)
アニメーションでの愛らしいビジュアルとは異なり、実際のお栄は顎が四角く、北斎からは「アゴ」と呼ばれていたとか。また、絵師名である応為の由来も、北斎がいつも「おーい、おーい」と呼んでいたからという説があり、なかなか父親からの扱われ方は、可哀想な感じです。
しかし一方で、お栄の美人画の力量は、北斎は認めていました。近年の研究では、北斎作とされる作品の一部がお栄の制作である可能性も指摘されています。

葛飾応為《吉原格子先之図》(太田記念美術館蔵)
画像提供=太田記念美術館
応為作品の数少ない現存作のなかでも、知る人ぞ知る名品とされるのが、太田記念美術館(東京)が所蔵する《吉原格子先之図》。吉原遊郭の格子の内と外、光と影を幻想的に描いた本作は、西洋絵画の影響も色濃く、浮世絵の枠組みにとらわれない、新しい時代における絵画表現の予兆すら感じさせます。
晩年のお栄について詳しいことは分かっておらず、江戸時代の終焉とともにひっそりと歴史の表舞台から姿を消します。映画『百日紅』で、丹念に、しかし淡々と描かれる、江戸時代の一人の女性の生き様は、200年という時の隔たりを越えて、多くの人の共感を得るものでしょう。
百日紅〜Miss HOKUSAI〜』新予告60秒
=============
映画『百日紅〜Miss HOKUSAI〜』
公開:全国公開中(上映館情報は下記公式サイトにて)
監督:原 恵一
原作:杉浦日向子「百日紅」
出演者:杏、松重豊、濱田岳、高良健吾、立川談春
配給:東京テアトル
2015年/日本
© 2014-2015 杉浦日向子・MS.HS/「百日紅」製作委員会
URL:http://sarusuberi-movie.com/index.html
=============
=============
太田記念美術館
住所:東京都渋谷区神宮前1-10-10
電話番号:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10:30~17:30(入館は17:00まで)
休館日:月曜日、展示替え期間
URL:http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/
※《吉原格子先之図》は現在展示しておりません。次回の展示時期については未定です。
展示スケジュールについては美術館HPにてご確認ください。
=============