甘利大臣が深刻な表情をしている訳 YAHOO!JAPANニュース H.26/02/16
YAHOO!JAPANニュース 2014年2月16日 11時11分
小笠原 誠治 | 経済コラムニスト
今日は、葛西選手の銀メダル獲得に日本中が沸いているために、すっかり見過ごされていると思うのですが‥実は、この週末に甘利大臣が訪米をして、米国のフロマン通商代表と会談を行ったことをご存知でしょうか? そう言えば、そうだったかも、なんて思い出す人もいると思うのですが‥
では、その結果はどうなったのか? 少しは進展が見られたのか?
答えは一目瞭然。甘利大臣の表情が全てを物語っているのです。結果は、関係者が予想していたとおり。
ひょっとしたら甘利大臣は、今ソチでオリンピックがあっていることさえ忘れているかもしれません。或いは、もう少し入院しとけばよかったと思ったかもしれません。
心中をお察しします。
甘利大臣は原発推進派。だから、私は、甘利大臣の普段の言動には全く共感することができないのですが‥それにしても、甘利大臣の今の状況がよく分かります。
普通、政治家にとって外遊とは楽しいものであるのです。国内にいれば、なんやかんやと批判されることが多いのが常ですが、一歩海外に跳びだせば、世界の多くの国が訪問を歓迎してくれるからです。特に総理などの特別の立場にある政治家が、途上国などを訪問するときにはなおさらでしょう。
従って、政治家にとって海外出張は楽しいことが多い筈なのに、今回の甘利大臣の訪米は全く逆なのです。
折角、訪米したと言っても、先方が歓待してくれるわけでもなし。それに、観光地を訪れる機会があるでもなし。ただ、先方から叱られるだけに行くようなものですから。13時間ほどかけてワシントンを訪れ、そして数時間の会談を行い、そして、会談とは言っても一方的に攻めまくられるだけ。そして、また13時間かけて日本に戻ってくる、と。
それでも、総理に対して何かいいニュースを伝えることができるのならともなく、戦果は全くなし。
「もう少しどうにかならないものなのかね」なんて言われようものなら、内心、だったら総理が直に大統領と話をして欲しいと喉まで出かねない、と。
つまり、アメリカを訪れるなんて言っても、よく考えたら呼びつけられただけなのです。アメリカは、一方的に日本の大臣を呼びつける、と。そして、交渉は当然のことながら英語で行われるから、微妙なニュアンスを伝えることもできない。仮に、微妙なニュアンスを先方が嗅ぎ取ったとしても、先方は敢て気づかない振りをして一方的に攻めまくる、と。
フロマン通商代表は、日本に問いただすのです。
「日本は本当にTPPの交渉妥結を望んでいるのか」と。
もちろん、そのような聞かれれば、「日本は一日も早い交渉妥結を望んでいる」と答える訳です。
そこで、先方は続けるのです。
「だとしたら、貴方が日本国内で1センチたりともアメリカに譲歩しないと言っているのはどういうことか? 貴方が病気で入院していたときに代理で出席した西村副大臣は、1ミリたりとも譲歩しないとも言っていた。一体どういうことなのだ?」
まあ、私に言わせたら、アメリカの方だって1インチも譲歩する気はないのに、そんなことは棚に上げておいて、日本だけを一方的に攻めまくる、と。
では、立場を替えて、アメリカは少しは譲歩をすることができるのか?
アメリカだって譲歩などできないのです。何故ならば、TPPは、アメリカにとって日本に譲歩させるための装置であるに過ぎないからなのです。自分たちが譲歩するなんて、そんなバカな!と。
日本側が仮に農産物に課せられる関税について大きく譲歩するとしたら、国内の農業関係者が大騒ぎをし、とても政治的に耐えられない状況が出現するでしょう。しかし、仮にそのような恐れが懸念されるとしても、その一方で、アメリカ側も自動車の関税などの面で譲歩をするならば、安倍政権としても米、麦、牛肉などに関して、ある程度は譲歩する戦略も考えられない訳ではないのです。つまり、アメリカ側も譲歩したのだから日本側も‥ということが、言い訳として成立する可能性があるからです。
しかし、アメリカ側が何も譲歩しない一方で、日本だけが譲歩を迫られるのであれば、それは日本の完敗という結果になる訳ですから、とても政治的に持たないのです。
甘利大臣は、訪米するまでもなくこのような結果に終わることは十分に承知していたものの、今回訪米して改めて自分たちにとって無力さを思い知らされたのです。
甘利大臣は次のように述べています。
「具体的に着地点が確定されたわけではない」「両国の立場の隔たりを狭めることの重要性につき合意をした」
甘利大臣は、こんなことになるのだったら、TPPの交渉など最初から日本は参加しない方がよかったと今しみじみ感じている可能性があるのです。しかし、経済界からの強い要請でどうしても交渉に参加せざるを得なかった、と。
仮に、アメリカ側の要望の多くを呑めば、それで交渉は妥結するかもしれないが、そうなれば、自分たちは国民にとって裏切り者みたいに映り、これから先、どうやって選挙を戦うことができるのか、と。
TPP参加を支持する人々は言っていました。交渉事はやってみなければわからない、と。
しかし、TPPに関する米国との交渉は、交渉とは名ばかりで、単にアメリカが日本に要求を呑ませる手段に過ぎない訳です。まだ、そのことに気がつかないのでしょうか。
そんなアメリカなのに、日本側はオバマ大統領に国賓で是非訪日して欲しいと懇願する始末。
TPP交渉で日本が譲歩しないのならば、オバマ大統領の訪日も取りやめになるか、日帰りにするしかないなんて話が今後出ないとも限りません。
いずれにしても甘利大臣の表情が冴えないのが、気になります。
以上
小笠原 誠治経済コラムニスト
小笠原誠治(おがさわら・せいじ)経済コラムニスト。1953年6月生まれ。著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」「経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(いずれも秀和システム)など。「リカードの経済学講座」を開催中。難しい経済の話を分かりすく解説するのが使命だと思っています。
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